「うちの子、どうしてこんなに勉強が苦手なんだろう…」
「何度教えても、同じところでつまずく」
「もしかして、学習障害かも?」
そんなふうに感じたことはありませんか?
親として、わが子の困りごとには誰もが敏感になります。でも、それが“甘え”なのか、“性格”なのか、それとも“発達の特性”なのかを見極めるのは、とても難しいことです。
今回は、学習障害(Learning Disabilities/LD)の可能性をやさしく見つめ直すための【診断テスト50問】をご紹介しながら、「今、何ができるか」を一緒に考えていきましょう。
学習障害(LD)とは?知的障害とは違う“見えにくい困難”
まず知っておいていただきたいのは、「学習障害=知能が低い」ではないということです。
文部科学省の定義によると、学習障害は「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す状態」とされています。
つまり、IQ(知能指数)は平均かそれ以上でも、特定の分野に限って苦手が強く出るのが特徴です。
学習障害には大きく分けて次の3タイプがあります:
- 読字障害(ディスレクシア):文字の読みが極端に苦手
- 書字表出障害:書くことに困難がある(漢字や文章が書けない)
- 算数障害(ディスカリキュリア):数字の理解や計算が著しく困難
こうした特徴は、見た目では分かりにくいため、周囲の理解が得にくいことが多いのです。
まずは試してみてください|学習障害チェックテスト50問
以下は、実際に教育現場で使用される簡易チェックリストをベースに、保護者の方が家庭で確認できるよう再構成したものです。
お子さんについて当てはまるものにチェックを入れてみてください(YES/NO)。
【読みの困難】
- 文字を読むのに時間がかかる
- 音読するとよく読み間違える
- 文の意味が読み取れないことが多い
- 指で文字をなぞりながら読んでいる
- 読み飛ばしや行の飛ばしが頻繁にある
- 同じ漢字を何度も間違える
- 単語の最初や最後の音を抜かす
- 読んだ内容をすぐに忘れてしまう
- 本を読むのを極端に嫌がる
- 読みの際に目を細めたり顔をしかめる
【書きの困難】
- 鏡文字や書き間違いが多い
- 書くスピードが極端に遅い
- マスの中に文字が収まらない
- 漢字とひらがなの使い分けができない
- 文をつなげて書くのが苦手(文構成)
- 書いた文字が自分でも読めない
- ノートを取るのが非常に苦手
- 同じ文字を繰り返し間違える
- 指の力が弱く、筆圧が不安定
- 書くこと自体を避けようとする
【聞く・話すの困難】
- 指示を一度で理解できない
- 話の内容をすぐ忘れてしまう
- 説明を聞いても動き出せない
- 話し方がたどたどしい
- 同じ話を何度も繰り返す
- 単語の意味をよく間違える
- 会話中に言葉が出てこないことが多い
- 音の区別(例:「ざ」「だ」など)が苦手
- 自分の気持ちを言葉でうまく表せない
- 話すことに自信がない様子がある
【記憶・集中の困難】
- 新しいことを覚えるのに時間がかかる
- 同じミスを何度も繰り返す
- 興味のないことには極端に集中できない
- 注意がそれやすく、話を聞き逃す
- 忘れ物が多い
- ルールを覚えるのが苦手
- 途中で何をしていたか忘れる
- 手順通りに作業できない
- 同時に複数のことができない
- 長時間の学習が苦痛そう
【算数・推論の困難】
- 繰り上がり・繰り下がりの計算で混乱する
- 時計を読むのが苦手
- 数字の順番をよく間違える
- 簡単な計算でも指を使わないとできない
- 数字が左右逆に書かれている
- 計算式の意味を理解していない
- 分数や小数で極端につまずく
- 問題文の意図をつかめない
- 暗算が極端に苦手
- 数を具体物でしか理解できない
✔チェック数の目安
- 10項目前後:一時的なつまずきの可能性。経過観察を。
- 15〜20項目以上:特定の分野での苦手さが顕著。一度専門機関に相談を。
- 30項目以上:学習障害や他の発達特性が疑われる可能性が高いです。
※これはあくまで「目安」であり、診断をするものではありません。
「うちの子、怠けてるだけ?」という誤解を手放す
「やればできるのに、どうしてやらないの?」
「集中力がないのは、本人のやる気が足りないからじゃないの?」
「お兄ちゃんは普通にできたのに、この子だけ…?」
学習につまずいたとき、多くの保護者が一度はこうした疑問やモヤモヤを抱えます。ですが、それは親として当然のこと。子どもの力を信じたいからこそ、できない姿に戸惑い、不安になるのです。
けれどここで立ち止まって、一つだけ大切な視点を持っていただきたいのです。
それは――「子どもが本当に“怠けている”ケースは、実はほとんどない」ということ。
🔍 見た目ではわからない「認知のハードル」
学習障害のある子どもは、「やろうとしても、うまくできない」という体験を日々重ねています。たとえばこんな場面を想像してみてください。
- 漢字を何度書いても覚えられない → 「なんでこんなこともできないの?」と責められる
- 音読するときに言葉がつっかえる → 「もっと練習して」と怒られる
- 計算で毎回ミスをする → 「集中してないんじゃないの?」と注意される
これらは、実際には本人の努力不足ではなく、脳の情報処理の方法が周囲と異なることによって起きている困難です。
🧠 学習障害は脳の特性のひとつ
最新の研究では、学習障害が「脳の構造的・機能的な違い」によって生じることが明らかになってきています。
● たとえば、読字障害(ディスレクシア)の場合:
- 通常、文字を読む際には、脳の「視覚野」から「言語処理野」へと情報がスムーズに流れます。
- ところが、ディスレクシアのある子どもは、この情報伝達に時間がかかりやすく、読みのスピードが遅くなる傾向があります。
これらはMRIなどの脳画像検査でも確認されており、本人の意欲や練習量とは無関係に起きている現象なのです。
つまり、「やる気がない」のではなく、「やる気があっても、うまくいかない」ことに毎日直面しているのです。
🧩 本人にしか見えない「壁」との戦い
学習障害の子どもは、日常生活の中で、周囲の子が簡単にこなせることに何倍もの労力を使っています。
- 文字を一文字読むのに、頭の中で「音」を探して「形」とつなげて…という複雑なプロセスが必要
- 計算ひとつにしても、数字の意味・順序・記号の使い方など、すべてに意識を集中させなければならない
- ノートを取るときは、「黒板を見る→記憶する→手を動かす」という連携がスムーズにいかないため、内容が抜け落ちてしまう
これらのことが、本人にとっては「精一杯やっても追いつけない」というストレスとなり、やがて「どうせできない」「怒られるくらいならやらない方がまし」と思うようになるのです。
💬 保護者の声かけが未来を変える
このような背景を知ることで、私たち大人の「声のかけ方」も大きく変わります。
たとえば――
- ✖「どうしてこんな簡単なことができないの?」
↓ - ◎「どこで困ってるのか、一緒に考えてみようか」
- ✖「また間違えたの?ちゃんと見てた?」
↓ - ◎「やり方が合ってなかったのかもね。別の方法も試してみようか」
- ✖「もっとがんばって!」
↓ - ◎「がんばってるの、ちゃんと伝わってるよ。できたこと、嬉しいね」
「できないこと」に目を向けるのではなく、「どんなふうに取り組んでいるか」に目を向ける。
これが、子どもにとっての“救い”になります。
🌱 「怠けている」のではなく、「助けを必要としている」
子どもが学習につまずいているとき、それは“サイン”です。
「もっと理解してほしい」「困っていることを知ってほしい」という無言のメッセージかもしれません。
「怠けている」と決めつけてしまうと、その声に気づけなくなってしまいます。
でも、「もしかして助けが必要かも」と見方を変えるだけで、あなたの言葉も、関わり方も、すぐに変わるのです。
🔖 まとめ
子どもが「できない」背景には、必ず理由があります。
学習障害という言葉を初めて目にしたとき、不安や戸惑いを感じるかもしれません。でも、知ることで見えてくる「違い」は、あなたとお子さんをつなぐ大切なヒントになります。
「この子は、怠けてるんじゃなくて、困ってるんだ」
そう気づけたとき、親子の関係も、子どもの未来も、きっと前向きな方向に変わり始めます。