朝になると布団から出られず、泣き出してしまう――そんなわが子を見て、「どうしたらいいの?」と胸を締めつけられるような思いを抱えている親御さんは少なくありません。
- 「もしかして、うちの子だけ?」
- 「甘やかしすぎたのかも…」
- 「無理にでも学校に行かせるべき?」
そんな不安や自己否定の声が頭をよぎることもあるでしょう。
でも、まず知っておいてほしいのは――
子どもが「学校に行きたくない」と感じるのは、決して珍しいことではなく、そこには必ず“理由”があるということです。
本記事では、心理学・教育の視点から、学校を嫌がる子どもへの理解と関わり方をわかりやすく解説していきます。あなたとお子さんが、無理のないペースで安心を取り戻すヒントになりますように。
第1章|小学生が「学校に行きたくない」と思う理由とは?
1.1 人間関係の悩み(いじめ・孤立・関係の不安)
文部科学省の調査(2023年)によると、小学生の不登校の約4割が「友人関係」に関係しています。特に低学年では「仲良しの友達が休んでいる日だけ行けない」などの小さなきっかけで、登校が難しくなることがあります。
1.2 勉強へのつまずき・自信のなさ
- 「漢字がどうしても覚えられない」
- 「読むのが人より遅い」
- 「計算になると頭が真っ白に…」
こうした悩みは、学習障害(LD)や発達特性による可能性があります。努力不足ではなく、脳の情報処理の特徴である場合も。子ども自身も、うまく説明できずに苦しんでいるのです。
1.3 教師との相性やクラス環境のストレス
感受性が強い子ども(HSC:Highly Sensitive Child)は、教室の騒がしさや先生の厳しい叱責に強いストレスを感じることがあります。「先生の声が怖い」「授業についていけない」など、大人には見えにくい苦しさが隠れていることも。
1.4 家庭環境の影響
家族の忙しさ、不安定な家庭の雰囲気なども、子どもに大きな影響を与えます。子どもは親の感情を敏感に感じ取り、「ママのそばにいたい」「離れるのが怖い」と思ってしまうことも。
第2章|「うちの子だけ?」と悩むあなたへ
2.1 登校しぶりは、決して珍しいことではありません
厚生労働省のデータでは、小学生の約20人に1人が登校に困難を抱えています(令和4年度:約8万人)。つまり、どのクラスにも1~2人は同じような悩みを抱えている子がいるということ。
「うちの子だけがおかしい」わけではなく、今の時代に合った育て方・学校のあり方が求められているのです。
2.2 「元に戻す」より「安心をつくる」
「学校に戻ってほしい」と願うのは自然なこと。でも、子どもは今、目に見えないSOSを出している状態。
心理学者カール・ロジャーズが提唱した「無条件の肯定的関心」という考え方は、評価せずに、そのままの子どもを受け止める姿勢が大切だと教えてくれます。
第3章|親ができる5つのアクション
3.1 「行きなさい」より「気持ちを聴こう」
無理に行かせようとするよりも、「今、どんな気持ち?」「困っていること、ある?」と優しく聴いてあげることが何よりのサポートになります。
共感的理解(empathic understanding)に基づいた対話が、子どもとの信頼関係を育てます。
3.2 学校以外の“安心できる場所”を探す
- 図書館で過ごす
- 放課後等デイサービス
- 習い事やオンライン学習
最近ではフリースクールやオルタナティブ教育も広がっており、「学校だけがすべてじゃない」選択肢が増えています。
3.3 担任やスクールカウンセラーに早めに相談
一人で抱え込む必要はありません。学校の先生やカウンセラーに「こういう場面で困っています」「こんな配慮があれば助かります」と具体的に伝えることで、連携した支援体制を整えることができます。
※診断がなくても、合理的配慮(障害者差別解消法)の対象になる場合があります。
3.4 毎日のリズムを大切にする
学校に行けなくても、
- 朝起きる
- ごはんを食べる
- 散歩する
- 夜は同じ時間に寝る
など、生活のリズムを整えることで、心の安定が取り戻されやすくなります。
「予測できる日常」は、不安を軽減する心理的な効果があるとされています。
3.5 親自身もケアしよう
登校しぶりに悩む親も、傷ついて、疲れて、どうしたらいいかわからなくなることがあります。そんなときこそ、相談機関や専門家に頼ることは立派な行動です。
親が安心していると、子どもも「大丈夫なんだ」と感じ取れるもの。まずは、あなた自身が安心できる場所を見つけてください。
第4章|「できていること」に目を向けてみる
「学校に行けない」ことばかりが目につきがちですが、こんな風に捉え直してみてください。
- 朝、起きられた
- 服を着替えられた
- ご飯を食べられた
- 宿題をちょっとやってみた
- 笑顔が出た
どれも、立派な“できた”です。
心理学者アドラーは、「人は勇気づけられることで変われる」と言いました。
小さな「できた」に光を当てることが、子どもの自己肯定感の土台になります。
【チェックリスト】子どもが出しているSOSサイン
子どもは言葉でうまく気持ちを伝えられないことが多く、代わりに「行動」でSOSを発していることがあります。以下のような変化が見られたら、心の中で何かが起きているサインかもしれません。
□ 朝になるとお腹が痛い・頭が痛いと言う
ストレスが身体症状としてあらわれている可能性があります。
□ 学校の話をしたがらない・反応が強い
「どうだった?」と聞くと黙る、怒る、泣くなどの反応がある場合、話すこと自体がつらいのかもしれません。
□ 笑顔が減った・無気力になった
以前好きだった遊びや趣味にも興味を示さなくなるのは、心が疲れているサインです。
□ 夜眠れない・朝起きられない
睡眠リズムの乱れは、心の不安定さと密接に関係しています。
□ 甘えが強くなった・ひとりでいられなくなった
親と離れるのを極端に嫌がる、抱っこや添い寝を求めるなどは、安心を求める行動です。
□ 小さなことで癇癪を起こす・イライラが増えた
感情のコントロールが難しくなるのも、心の負荷が高まっているときの特徴です。
このチェックリストは「診断」ではありませんが、日々のちょっとしたサインに気づくためのヒントになります。
こうしたサインを見つけたとき、「困った行動」ととらえるのではなく、「何か伝えたいことがあるのかも」と受け止めてみてください。
第5章|「うちの子にとっての幸せ」は、家庭ごとに違っていい
周りの家庭と比べず、「うちの子にとって、どんな毎日が心地いいか?」を一緒に考えていければ大丈夫です。
学校に行かなくても、学びの場はたくさんあるし、子どもの成長は止まりません。
焦らず、比べず、一歩ずつ進んでいきましょう。
まとめ|今できることを、あなたのペースで
- 学校を嫌がる子どもには、必ず理由がある
- 「うちの子だけじゃない」と知ることで、安心できる
- 親は「理解・共感・相談」でサポートを
- 子どもの小さな“できた”を見つけて勇気づける
- 親自身も無理をせず、ケアを忘れずに
【Q&A】よくある保護者の悩みと回答
Q1. 無理にでも学校に行かせた方がいいのでしょうか?
A. 無理は逆効果になることもあります。
無理やり登校させることで、かえって不安や恐怖が強まり、心を閉ざしてしまうことも。今は「学校に行けるようにする」ことよりも、「安心して過ごせる環境をつくる」ことが大切です。まずは本人の気持ちを聴き、必要に応じて学校とも協力しながらサポートしましょう。
Q2. 「このまま引きこもりになるのでは」と不安です
A. 今の状態が「ずっと続く」とは限りません。
一時的にエネルギーが低下している状態であり、しっかり休んで心が回復すれば、また前に進む力は戻ってきます。焦らず、信じて、支える姿勢が何よりの後押しになります。
Q3. 学校を休ませると「甘やかし」になりますか?
A. 甘やかすことと、寄り添うことは違います。
「今は休む必要がある」と判断して休ませるのは、子どもの心を守るための適切な対応です。ルールを緩めることと、愛情で包むことは、まったく別物と考えて大丈夫です。
Q4. 周囲の目が気になってしまいます…
A. 他人の評価より「わが子の笑顔」を最優先に。
祖父母やママ友、近所の人の声が気になることもあるかもしれません。でも、本当に大切なのは、目の前のわが子の心と未来です。堂々と、そしてしなやかに、あなたなりの子育てを貫いてください。
Q5. 親である自分がつらくて泣いてしまいます…
A. それだけ、真剣に向き合っている証です。
子どもの不安を受け止めるには、親のエネルギーも必要です。泣いてしまうのは、心が頑張っている証拠。無理せず、必要なときにはカウンセラーや支援機関を頼ってください。あなたの心が安心してこそ、子どもも安心できます。
このQ&Aは、悩みを一人で抱え込まないための入り口です。
「大丈夫、あなたはちゃんとやれている」――そう感じていただけたら、何よりです。
応援メッセージ|あなたとお子さんに、心からのエールを
「学校行きたくない」と涙を見せるわが子。
どうしてあげればいいのか分からず、心が張り裂けそうな朝もあったかもしれません。
それでもあなたは、毎日子どもと向き合い、悩みながらも寄り添おうとしている。
それだけで、もう十分すぎるほど、頑張っています。
登校できるかどうかよりも大切なのは、子どもが安心できること。
そして、あなた自身も安心していられることです。
「うちの子だけ?」「このままで大丈夫?」
そんな不安が押し寄せる日もあるでしょう。
でも、子どもには、今のペースでしか歩けないときがあるのです。
そしてその隣で歩いてくれる大人がいることが、何よりの支えになります。
小さな「できた」に目を向けながら、焦らず一歩ずつで大丈夫。
「また笑えたね」「今日は少し話せたね」
そんな日々の積み重ねが、親子の絆を育てていきます。
どうか自分を責めないでください。
今あなたがしていることは、何よりも尊く、必要な愛の形です。
あなたとお子さんに、心からのエールを送ります。